修復前
修復後
【作品概要】
材質:木製、黒漆塗り、螺鈿装飾
時代:江戸時代、19世紀
法量:高さ142.3㎝、縦42.0㎝、横63.1㎝
台脚と一具をなす西洋家具様式の箪笥。
正面に観音開きの扉と抽出1段が付き、扉内にも左右に3段ずつ計6つの抽出があります。
正面の菊鶏文をはじめ、伏彩色を施した薄貝螺鈿装飾が随所に見られます。
輸出漆器のため、おそらくは海外で使用されていたと思われます。
【施工期間・場所】
期間:2019~2020年度の2か年
場所:九州国立博物館内 文化財保存修復施設6
【主な損傷状況】
・表面の汚れ(埃、カビなど)
・合成塗料によるオーバーペイント
・金具の変形
・螺鈿の剥離・剥落
・塗膜の剥離・剥落
・木地構造の損傷(木地接合部分に隙間)
・漆塗膜の欠損
【科学的な調査とその活用】
九州国立博物館の協力を得て、修復前にX線CT調査を実施しました。
今回のように、変形した金具の形を修整するためにはそれらを安全に取り外す必要があります。
CT調査で得られる画像で金具の釘や鋲の向きを確認しながら、蝶番と隅金具の一部を取り外しました。
蝶番部分のCT画像(九州国立博物館提供)
【処置内容】
<クリーニング>
まず、表面に付着している塵や汚れを払い落としました。漆塗膜に傷が入らないように毛の柔らかい刷毛などを用いて行いました。
漆塗膜に付着しているカビ汚れは、手触りの柔らかい木綿布や綿棒に極少量の水分を含ませて少しずつ拭きとりながら除去しました。
<合成塗料の除去>
過去の補修で塗られたであろう黒色の塗料は、鑑賞の妨げになるとともに、螺鈿や塗膜の安定処置の妨げにもなっていました。
エタノールを含ませた柔らかい木綿布や綿棒で拭き取り、可能な限りで除去を行いました。
オーバーペイントされた塗料の除去
<変形した金具の修整>
変形した金具を取り外し、形を修整しました。
金具、修整前
金具、修整後
<螺鈿の再接着(剥離・剥落止め)>
膠水を剥離している螺鈿(貝片)の下に流し込み、圧着固定を行って螺鈿を安定させました。
螺鈿の剥離部分に膠水を含浸
<塗膜の接着(剥離・剥落止め)>
塗膜接着に適した粘度の低い麦漆を溶剤で希釈して、塗膜下に流し込み、圧着固定して安定させました。
扉裏の打損部、麦漆接着
<木地構造の安定>
亀裂箇所の充填接着に適した粘度の高い麦漆を溶剤で希釈して、亀裂に含浸し補強しました。
背面の亀裂箇所、麦漆含侵
<欠損部への充填>
漆塗膜(下地層より上の層)が欠損している箇所は、そのままですと取り扱い時に手や緩衝材が欠損部の際に引っ掛かり、損傷をさらに広げてしまう恐れがあります。
そういった欠損箇所には刻苧を充填し、漆下地を付けて、現状最上面の塗膜よりほんの少しなだらかに下がるように整え、段差や引っ掛かりのないようしました。
亀裂により僅かに隙間が生じている箇所にも可能な限り充填を行いました。
漆下地を付けた後は砥石で水研ぎして表面が滑らかになるように整え、漆固めを行って仕上げました。
扉裏、刻苧充填
<報告書の作成>
修復前、修復後はもちろん、修復中も写真撮影を行い、記録を取ります。
修復前後を比較できる報告書を作成し、作品返却と同時に提出しました。