処置前
処置後
【作品概要】
材質:鉄(鍛造)、漆塗り、和紙、銀箔押
時代:安土桃山~江戸時代、16~17世紀
法量:高さ 83.5 cm、前後径 25.8 cm
熨斗烏帽子形の鉢に割蛤の脇立を付した当世兜。
眉庇 [まびさし] には打出し眉を一条あらわし、錣 [しころ] は5段で各段一枚板、赤・黒・金で色分けされています。
福岡藩初代藩主、黒田長政愛用の変わり兜で、長政の三男であり秋月藩初代藩主となった黒田長興が譲り受けたものと伝わっています。
右側面、処置前
【施工期間・場所】
期間:2015年度内、4日間
場所:朝倉市秋月博物館(旧・朝倉市郷土資料館)
【主な損傷状況】
・表面の汚れ
・紙の剥離
・塗膜の剥離・剥落
・漆塗膜の欠損
【処置内容】
今回は展示貸出前の応急処置として、梱包や輸送、展示の際に負荷がかかる突起部分や大きな剥離箇所を優先的に処置し、安定させることで損傷拡大を防ぎます。
<蛤脇立の取り外し>
最初に兜本体から蛤脇立を取り外しました。
蛤脇立の取り外し
<塗膜の接着(剥離・剥落止め)>
蛤脇立の鉄製金具周辺に生じている亀裂に、充填接着に適した粘度の低い麦漆を溶剤で希釈して含侵し、接着させました。
漆塗膜が欠損している箇所の周辺は塗膜が少し浮いてしまうため、緩衝材などが引っかかってしまう恐れがあります。漆塗膜の下にも同様に麦漆を流し込み、塗膜をしっかりと接着することで損傷の拡大を防ぎました。
蛤脇立、亀裂に麦漆を含浸
錣の裏、漆塗膜の圧着固定
<錆止め(拭漆)>
金具部分にわずかに錆が生じていたため、錆を拭き取り、錆止めとして拭漆を行いました。
蛤脇立の金具部分、拭漆
<紙の再接着(剥離・剥落止め)>
突盔形部分は紙貼りのため、剥離部分は膠水で接着し、安定させました。
大きくて目立つ箇所、損傷拡大につながりそうな箇所から順に処置しました。
接着前
接着後
接着前
接着後
<報告書の作成>
処置中は写真撮影を行い、記録を取ります。
処置前後を比較できる報告書を作成し、提出しました。