修復前
修復後
【作品概要】
材質:木製、鉄、朱漆・黒漆塗り、蒔絵装飾
時代:江戸時代初期、「慶長十五庚戌五月日」(1610) の年紀あり
法量: (結高) 前輪 29.3 cm、後輪 31.0 cm、乗間 30.9 cm
海有水干鞍と両笑鐙。
名称にあるとおり、三猿 (見ざる・言わざる・聞かざる) が黒漆塗地に金蒔絵であらわされています。
鞍の前輪に一匹 (言わざる) 、後輪に二匹 (見ざる・聞かざる)、射向の鐙に一匹 (聞かざる)、馬手の鐙に一匹 (見ざる) が描かれています。
鞍 (鞍橋 [くらぼね]) の形状は古様で鎌倉時代前期の特徴が見られ、古い鞍を模して制作された可能性があります。
鐙の紋板は九段透し、紋金具は三階菱です。
【施工期間・場所】
期間:2014年度、1か年
場所:九州国立博物館内 文化財保存修復施設6
【主な損傷状況】
・表面の汚れ(埃、カビ汚れなど)
・塗膜の剥離・剥落
・木地構造の損傷(木地接合部分に隙間)
・漆塗膜の欠損
【科学的な調査】
九州国立博物館の協力を得て、修復前にX線CT調査を実施し、構造把握に努めました。
鞍橋、居木のCT画像(九州国立博物館提供)
右鐙のCT画像(九州国立博物館提供)
【処置内容】
<解体>
鞍橋は、前輪・後輪・居木を結んでいる麻紐を外して、4つの部材に解体してから修復作業を行いました。
解体後
<クリーニング>
最初に、毛の柔らかい刷毛などで表面に付着している塵や埃を払い落としました。
漆塗膜に付着しているカビ汚れは、手触りの柔らかい木綿布や綿棒に極少量の水を含ませて少しずつ拭きとり、除去しました。
居木、クリーニング前
居木、クリーニング後
<木地構造の安定>
鐙は金属と木地の接合部から亀裂が生じていました。
充填接着に適した粘度の高い麦漆を溶剤で希釈して亀裂箇所に含浸し、充填接着を行いました。
鐙、亀裂箇所への麦漆含侵
<塗膜の再接着(剥離・剥落止め)>
欠損箇所周辺の塗膜が剥離していたため、塗膜接着に適した粘度の低い麦漆を溶剤で希釈して、塗膜下に染み込ませ、圧着固定を行いました。
鐙、麦漆の含侵
鐙、圧着固定
<欠損部への充填>
亀裂箇所と目立つ欠損箇所には刻苧を充填し、漆下地を付けて表面肌を整えました。
また、欠損箇所の塗膜の際にごく少量の漆下地をつけることで、欠損箇所とその周辺の塗膜(現状の最上面の塗膜)との段差を緩和させました。
これにより、塗膜に引っかかることなく作品を取り扱うことができます。
前輪、刻苧を充填
鐙、塗膜の際に下地付け
<組み立て>
麻紐を新調し、鞍を組み上げました。
組み立て・固縛作業は、甲冑制作・時代考証を専門とする豊田勝彦氏に依頼しました。
鞍橋の組み立て
<保管関連品の調達>
保存用の桐箱を新調し、鞍は組んだ状態で収めました。
桐箱内での安定性や出し入れの際の保護を考慮し、風呂敷と座布団も新調しました。
新調した保存箱
<報告書の作成>
修理前、修理後はもちろん、修理中も写真撮影を行い、処置記録を取ります。
修復前後を比較できる報告書を作成し、作品返却と同時に提出しました。