修復前
修復後
【作品概要】
材質:木製、黒漆塗り、沈金装飾
時代:18~19世紀か
法量:高さ 60.2 cm、縦 46.5 cm、横 46.5 cm
琉球製の中央卓 [ちゅうおうじょく]。
天板と地板に山水楼閣人物図、格狭間に七宝繋文、鰭・足・框・脚に葡萄唐草文をあらわしています。
いずれも沈金技法による装飾です。
中央卓は床飾りの一つで、上に香炉を置き、下に活花を飾るといわれています。
将軍家や大名家への進上品として、あるいは琉球王家・王族家での儀礼などで用いられたとされています。
【施工期間・場所】
期間:2018年度内、約半年
場所:九州国立博物館内 文化財保存修復施設6
【主な損傷状況】
・表面の汚れ(埃など)
・塗膜あるいは下地層からの剥離・剥落
・木地構造の損傷(木地接合部分に隙間)
・漆塗膜あるいは下地層の欠損(木地の露出もあり)
【科学的な調査】
底裏からの剥落塗膜片と位置不明の剥落塗膜片(所蔵者が別保管していたもの)をデジタルマイクロスコープで観察しました。
同じ作品の塗膜片でも劣化の度合いに違いがあるのがわかります。
底裏の塗膜に比べ、位置不明の塗膜は劣化が激しく、非常に細かな亀裂(断文)が生じており、おそらく作品の上面など光の影響を受けやすい面の塗膜であると考えられます。
底裏の塗膜片(x200)
位置不明の塗膜片(x200)
また、九州国立博物館の協力を得て、X線CTによる構造調査やマイクロCTでの塗膜断層構造の調査も行いました。
これらの調査結果は浦添市美術館紀要第15号に掲載されています。
【欠損箇所の価値】
欠損箇所は制作工程(構造)や素材などを調査・研究できる貴重な資料でもあります。
今回、所蔵する浦添市美術館様から、今後の調査活用のために構造を目視で確認できる箇所を1箇所、修復処置を行わずに残しておきたいとの要望がありました。
どの欠損箇所であれば現状のままにできるか館の担当者様と検討を重ね、処置せず残すために必要な以下の条件を満たす、底裏の脚の小さな欠損箇所を触らずに残しました。
(条件)
・欠損周辺の塗膜に浮きが見られず安定しており、
損傷拡大の心配がほとんど無い
・輸送や取り扱いの際に損傷拡大する恐れがない
・展示の際に目立たない
欠損箇所の横幅は1 ㎝程度で、木地の状態や下地の厚みなどを確認するのにも適した箇所といえます。
処置せず残した底裏の欠損箇所
【処置内容】
<クリーニング>
応急処置の段階でクリーニングがなされていましたが、底裏や隅、損傷個所の上などには汚れが付着したままでした。
塗膜を傷つけないように毛の柔らかい刷毛などで埃を払い、極少量の水含ませた木綿布や綿棒で水拭きを行いました。
埃払い
水拭き
<塗膜の再接着(剥離・剥落止め)>
塗膜接着に適した粘度の低い麦漆を溶剤で希釈して、塗膜下に染み込ませ、圧着固定を行いました。
今回の作品のように、クランプで挟み込んだり重しを置いたりして圧着するのが難しい曲面の場合、竹ひごの弾力性を利用して圧力をかけて接着させます。
作品の外側に木枠を組み、その木枠と処置箇所の間に竹ひごを挿し入れています。
麦漆の含侵
圧着固定
<木地構造の安定>
充填接着に適した粘度の高い麦漆を溶剤で希釈して亀裂箇所に含浸し、充填接着を行いました。
亀裂箇所への麦漆含侵
<欠損部への充填>
木地接合部の隙間や亀裂箇所、目立つ欠損箇所には刻苧を充填し、漆下地を付けて表面肌を整えました。
引っかかりのないよう、損傷箇所の塗膜の際にも漆下地を付けて段差を和らげました。
漆下地を付けた箇所は漆固めをして仕上げました。
漆下地付け
砥石で下地の水研ぎ
漆固め
<報告書の作成>
修理前、修理後はもちろん、修理中も写真撮影を行い、処置記録を取ります。
修復前後を比較できる報告書を作成し、作品返却と同時に提出しました。