修復:叢梨地牡丹唐草向鶴紋散蒔絵調度の内、髢箱(国(文化庁保管))

 
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修復前

修復後

【作品概要】

 
材質:木製、黒漆塗り、叢梨地 [むらなしじ] に蒔絵装飾
時代:江戸時代、18世紀
法量:高さ 142.3㎝、縦 42.0㎝、横 63.1
附属:外箱1合(被蓋造り、黒漆塗り、銘「村梨子地牡丹唐草蒔絵 御かもし箱」)
 
合口造り、懸子付きの髢箱 [かもじばこ]。
棚飾りを中心に化粧道具、手洗道具、文房具、香道具を取りそろえた36種の婚礼調度のうちの一つです。
全体を叢梨地に仕立て、金と青金の平蒔絵で牡丹唐草の文様を描き、金の平蒔絵で向鶴に九曜の家紋を散らしています。
銀製の紐金物にも向鶴紋が彫られており、盛岡藩藩主・南部家にゆかりのある婚礼調度とされています。

 

修復前

【施工期間・場所】

 
期間:2017年度内、2か月
場所:九州国立博物館内 文化財保存修復施設6

【主な損傷状況】

 
・表面の汚れ(埃、カビなど)
・底裏に管理用シールの貼付
・木地構造の損傷(木地接合部分に亀裂)
・塗膜の剥離・剥落
・漆塗膜と下地の欠損
・金具の弛み、脱落

【処置内容】

 
<クリーニング>
毛の柔らかい刷毛などを用いて、表面に付着している塵や埃を払い落としました。
漆塗膜に付着しているカビ汚れなどは、手触りの柔らかい木綿布に極少量の水を含ませて少しずつ拭きとり、除去しました。
必要以上のクリーニング作業は行わず、経年感を損なわない程度に留めました。


蓋表、埃払い

身、水拭き

<貼付された管理用シールの除去>
身の底裏に管理用のシールが貼られていました。
シールを水で湿らせ剥がした後、塗膜上に残った粘着剤をエタノールで除去しました。


身の底裏、シールの除去

<木地構造の安定>
指物木地の場合、経年により各木材が収縮したり歪んだりすることで、木材同士の接合面が外れ、僅かな隙間が生じ、下地から塗膜表面の亀裂へといたります。
今回も、角の接合部分において隙間が生じていたため、充填接着に適した粘度の高い麦漆を溶剤で希釈して、亀裂から流し込み、接着をして安定させました。
圧着固定にはハタガネを使用しました。作品に傷が付かないようゴム板を挟んで使用しています。


蓋鬘、亀裂箇所に麦漆を含浸

蓋、ハタガネで圧着固定

<塗膜の接着(剥離・剥落止め)>
亀裂や欠損の周辺の塗膜は剥離が生じていたため、塗膜接着に適した粘度の低い麦漆を溶剤で希釈して、塗膜下に流し込み、接着しました。


身内側の金具周辺、麦漆含浸

<欠損部への充填>
亀裂箇所と目立つ欠損箇所には、刻苧を充填して漆下地を付け、表面肌を整えました。
取り扱い時に引っかかりのないよう、欠損箇所とその周辺の塗膜(現状の最上面の塗膜)との段差を緩和するように漆下地を付けました。


身の欠損箇所、刻苧充填

身の欠損箇所、下地付け

<漆固め(艶の回復)>
塗膜の強化と艶の回復のため、蓋、懸子、身で互いに擦れ合った部分に漆固めを行いました。
漆を擦り込んだ後、表面に余分な漆が残らないようにしっかりと拭き取りました。


身の内側、漆固め

<金具の修整、打ち直し>
身の内側、弛んでいる紐金物の割り足を少し広げて軽く叩き、しっかりと固定させました。
脱落していた覆金具は爪が僅かに内向きに曲がっていたため、外側に広げ直し、元の爪穴を活かして同じ位置に打ち直しました。


身の内側、金具の割足を広げる

覆金具の爪を外側に広げて修整

身の内側、金具を元の爪穴に打ち込む

<報告書の作成>
修理前、修理後はもちろん、修理中も写真撮影を行い、処置記録を取ります。
修復前後を比較できる報告書を作成し、作品返却と同時に提出しました。